30歳からのプログラミング

30歳無職から独学でプログラミングを開始した人間の記録。

『マンガでやさしくわかる知識創造』を読んだ

野中郁次郎らが提唱した知識創造理論の入門書。
知識創造とはどのようなものか、そしてそれがなぜイノベーションにつながるのか、具体例を用いながら平易な文章で解説されている。

pub.jmam.co.jp

知識創造理論については存在も知らず、現職の同僚との 1on1 でそういうものがあると教えてもらった。
お互いに社内の情報のキャッチアップの必要性と難しさを感じており、それについての会話のなかで「知識創造理論というものがよいらしい」という話になった。
『知識創造理論』もその続編である『ワイズカンパニー』もそれぞれ 500 ページ以上あるので、まずは入門書である本書を読むのがよさそうとなった。
実際に同僚が読んでみたところ面白かったとのことだったので、自分も読んでみた。

主人公たちが知識創造理論を実践していくマンガパートと、その内容について詳しく見ていく解説パートが交互に繰り返される、というのが基本的な構成。解説パートも文字が大きめで行間も広く、読みやすい。
知識創造理論の主要な概念であるSECIモデルや「場」、ワイズ・リーダーシップなどについて、一通り学ぶことができる。

知識創造理論の中核であるSECIモデルは、面白いし納得感があった。
SECIモデルでは形式知と暗黙知の相互変換が繰り返されていくわけだが、形式知から暗黙知を創ることも大切である、という視点を得られたのが特に大きな収穫だった。今まで自分は、「いかにして暗黙知を形式知に変換してそれを共有するか」にのみ関心が向いていた。ドキュメンテーションなどが分かりやすい例だろうか。しかしそれだけではなく、形式知を取り込んで自分のなかに暗黙知を創っていくことも大切なのだと知ることができた。

SECIモデルの目的を「イノベーションを起こすこと」としているのもよかった。テンションが上り共感しやすい。
単に「情報やノウハウが共有されてよかったですね」という話ではなく、「SECIモデルを回して知識創造のスパイラルを創るんだ!」「それによってイノベーションを実現するんだ!」という、熱い感じになっているのがよい。

社内の情報をキャッチアップしたいと書いたが、自分は特に、事業戦略やそれに関する情報について、知りたい、知る必要があると、思っている。
以下の記事に「事業や組織を次の段階に進められる、そういう人になりたい」と書いた。

numb86-tech.hatenablog.com

だがそれを実現するためには、事業や組織について知らないといけない。
事業や組織はどこに向かおうとしているのか、何をやりたがっているのか、何を重視しているのか、どういう課題を持っているのか、何が順調で何に苦戦しているのか。そういう、事業や組織の動向を知らないと、成果など出せるわけがない。
そういう情報も一種の「知識」であると考えれば、知識創造理論の対象なのかもしれない。

数ヶ月前、自社のミッションについて考える機会があったのだが、あれも知識創造活動の一種だったのかもしれない。

もともと、データエンジニアの求人票を書いたりデータチームの方針を考えたりしたかったのだが、そのためにはまずチームのミッションを考えたほうがいいなと判断した。そしてそれを考えるために今度は会社のミッションについて考えることになり、自分にとっての「採用を変える」とはどういうことなのかを、整理していった。その後は逆の流れで、普段自分たちが行なっているデータ関連の業務は会社のミッションとどう関係しているのか考えていき、さらにそこから「じゃあデータチームのミッションってこういうことか?」と整理していった。

後付ではあるが、これは内面化のような気がする。内面化とはSECIモデルのIの部分であり(Internalization)、先程少し触れた、形式知を暗黙知に変換するプロセスのこと。
上記の取り組みによって、ミッションについて内面化が進んだと感じている。単に文言として会社のミッションを知っているのではなく、「こういうことである」という感覚が自分のなかにある。
事実、先程の記事では勤務先である HERP のミッションについても書いているのだが、それはあくまでも、自分なりの理解や解釈であって、会社が提示している文言をただ機械的に書き写したわけではない。

そして内面化で終わらせず、次のプロセスである「共同化」やさらに次のプロセスへと螺旋を描いていくことができれば、それ自体が組織の強化になり、「組織を次の段階に進める」ことにつながるのだろうなと思った。

もうすぐ 40 歳になるが労働を 3 年以上続けられたことがない IT エンジニアの話

「30歳からのプログラミング」と題したこのブログを書き始めたのが 2016 年 3 月。
そこから月日が立ち、立派なアラフォーとなったわけだが、私はこれまで 3 年以上継続して働いたことがない。プログラマに転身する前も含めて、である。一度もない。
3 年経つ前に、必ず無職になってしまう。労働して貯めた貯金を食い潰しながら無職生活を送り、カネが無くなりそうになってまた働く、ということを繰り返している。

だが、今の勤務先(株式会社HERP)に入社したのは 2021 年 10 月 1 日であり、入社してからもうすぐ 3 年になる。
つまり、 3 年以上労働を続けることになる可能性が高い。
仮にこの記事を投稿した直後に退職を決意したとしても、引き継ぎや有給休暇の消化などで、さすがに 9 月末までは在籍していると思う。そうなれば 3 年到達である。

今までの会社を辞めてきた理由は様々だ。同様に、今の会社に在籍し続けている理由も、複合的なものである。

ひとつ大きいのは、やりたいことをやれており、それを楽しめているということ。
以前はそもそも、何をやりたいのか、ソフトウェアエンジニアとしてどうなりたいのか、分からなかった。その結果、新しい技術や流行りの技術を覚えなければいけない、市場価値を上げなければいけない、もっと勉強しなければいけない、という焦燥感に駆られ、疲弊したりしていた。
今の環境では働きながら内省を深めることができるので、自分は何をしたいのか、何に夢中になれるのか、何に情熱を持てるのか、折に触れて考えるようにしていた。そうすると、今の自分がやりたいこと、やってみたいことが、見えてきた。

単純に言えば、「どう作るか」だけでなく「何のために何を作るのか」から考え、戦略を立て、それを実行することによって、大きな成果を生み出したい。それによって事業や組織を次の段階に進められる、そういう人になりたい。それがやりたいことだった。
以下の記事に書かれている内容が、自分のやりたいことに近い。

onk.hatenablog.jp

そもそも何が問題なのかを明らかにするだとか、最適な解決策を見つけるのが、仕事をしていて一番面白いところだと僕は思っている。
(中略)
やるだけになっているものを進めるのでも十分難しいとは思うが、誰も明らかにできていなかった問題に対して自分が輪郭を削り出すことに成功するのは最高に気持ちいい。
(中略)
目標や成果物を明らかにし、それを達成するための戦略やアプローチを定義するプロセスは、戦略的な思考を活かすことができ、自己効力感がある。

もうひとつ、やりたいこと、というか好きなことがある。
それは、仕組みや機構を理解すること。仕組みが動作している背景にあるルールや原則を見出し、要素と要素の関係性を掴み、なぜどのような仕組みで動作しているのか理解したい。そういうことに、強い関心がある。これは何か理由があるわけではなく、理解することそれ自体に強い関心を持っている。
自分がプログラミングのことを好きな理由のひとつでもあると思う。それから、このブログも、「理解の証明」として書いているという側面がある。読んでいる人に分かりやすく説明するためには、まず自分が理解していないといけない。自分が理解しているからこそ、適切な構成で説明を記述していける。だから自分にとってブログは、理解していることを証明しようとして書いているもの、と言える。

自分がやりたいことが分かったので、そういうことをしたいと、社内の 1on1 などで話すようにしていた。
そのおかげかどうかは分からないが、課題を発見しそれを解決するための戦略を立て実行していく、ということを明示的に求められるロールにアサインされた。
今年の春から、社内のデータプラットフォームを構築し運用するチームのリーダーになった。

先ほど紹介した記事、が紹介しているスライドの中に「高い山の中腹ではなく、低い山の頂上に立て」という話があるが、まさにそれをやれそうだった。今の自分には全社的なことを見て考える能力はないので、まずはチーム単位でやってみようと思った。

仕組みを理解したい、そして理解したことを言語化したい、という志向とも、このロールは相性がいいと思っている。

リーダーになって半年ほど経ったが、成功したり失敗したりしながら、楽しめている。
四半期の頭に自分が決めた方針が妥当なものであり、それが成果を生んでいたら、満足感がある。と同時にそれをもっと速く推進できていれば防げた失敗もあり、今度は「どこに向かうか」だけでなく「チームとしてどうやってそこに速く向かうか」も考える必要が出てくる。
こんな風に、考えることは山程あり、楽しくやれている。

楽しくやれているのは、リーダーというロールにアサインしてもらったからだけではない。
会社の文化によるところも大きい。

HERP に入社した際に、以下の記事を書いた。

numb86-tech.hatenablog.com

この記事で自分は、企業文化や透明性こそが大切であり、そして HERP は健全であり、柔軟な組織なのではないかと書いた。
当たっていた。HERP は透明性があり、政治や忖度はなく、仕事について誠実に会話ができる。
そして柔軟性もある。私も変わったが、組織も変わった。まだまだ多くの問題を抱えてはいるが、変わることのできる組織である。

先程の記事には、「コンプレックスのおかげでここまでやってこれたけど、今後はもっと前向きで健全なモチベーションでやっていきたい」とも書いた。
既に書いたように楽しくやれており、前向きなエネルギーで働くことができている。

そしてこれは、今まで働いてきた環境では絶対に不可能だったと思っている。
特に、新卒で入った信用金庫では、本当に上手くいかなかった。
セクハラや暴力が横行している時点で論外だったのだが、それらがなくても、明らかに向いていなかった。根性と愛嬌、政治と人脈、という世界だった。あそこにいたとき、成果は出せなかったし、評価もされなかったし、何より全く楽しくなかった。

今の会社に来たからこそ、多少なりとも能力を発揮し、少しでも大きなインパクトを生み出すべく、楽しく働けている。

しかし、皆が皆、自分に合った、自分のポテンシャルを発揮できるような、そういう環境に辿り着けるわけではない。
特に、学歴に恵まれず、20 代でのキャリア形成が上手くいかなかった人の場合、どうしても選択肢に強い制限が生まれるのではないかと思っている。採用市場というのは、強者がより強者になる、という構造になりがちだと思う。ネームバリューのある会社でよい経験を得られた人は、それを武器にして、さらにステップアップしていく。それを繰り返していく。一方で、そのサイクルに入り損ねてしまうと、経験や能力を獲得する機会を得づらくなり、それゆえに経験や能力を得られる環境に移ることが難しくなる、という悪循環に陥ってしまう。

私自身も、 10 代の頃は引きこもっていて高校を中退しており、大検(今は「高卒認定試験」)を取得して比較的入りやすい大学に入り、新卒で入った信用金庫は精神を病んで 3 年持たずに辞めて、そのまま 1 年近く無職をやっていた。こういう状態になってしまうと、なかなか難しいと感じる。
そんな自分が、有名大学出身で著名な企業で働いてきた人が多い今の会社で働いているのは、正直なところ「運」であり「偶々の巡り合わせ」だと思っている。

運や偶然ではなく、それを望んだ誰もが、自分に合った環境、楽しく働ける環境に移っていけるようにしたい。学歴や職歴がガタガタだろうが、性別がなんだろうが、家庭環境がどうだろうが、そういったことは関係なく、その人のポテンシャルを発揮できる場所で働ける社会にしたい。

どうやればいいのか、そもそもそんなことが可能なのか、よく分からない。
だがそういう社会が実現できたら素晴らしいと思う。少しでもそういう世界に近づけたいと思う。

HERP がやろうとしているのはそういうことだと、私は解釈している。
採用を変えて、出会うべき人と企業が出会える社会を実現しようとしている。そのために、「採用」に関する様々なサービスを提供している。

そして私はまず、データという観点から、そういった社会の実現に貢献すべく働いている。
データが貢献できる余地はとても大きくて、データを活用することでよりよいプロダクトやカスタマーサクセスを提供していけるし、新鮮で質の高い大量のデータを管理しているからこそ提供可能な事業やサービスというものもある。

そしてこの環境もまた、誰かにとってポテンシャルを発揮できる環境だと思っている。

課題を発見し、それを解決するための戦略を立て、関係者を巻き込みながら解決案を実行していく、というのは何もリーダー特有の仕事ではない。
少なくとも今データチームが求めているのは、そういったことにオーナーシップを持って取り組んでくれる人材である。

それが貴方にとって楽しいかは分からないけど、私は楽しい。
興味が湧いたのなら応募して欲しいし、応募する意思はないが話を聞いてみたいのであれば私に連絡して欲しい。

herp.careers

https://x.com/numb_86

そして、データエンジニア以外の職種もたくさん募集しているので、「データ」に強い関心はないが HERP のミッションや文化に興味を持った、という方がいれば、ぜひ応募を検討してみて欲しい。

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