「リスク」をどのように捉え、どのように向き合っていくべきなのか説いた一冊。
用語や概念の整理をしつつ、具体的にどのように取り組むべきかを論じていく。
2003 年頃に出版されたということもあってか、ソフトウェアの受託開発を念頭に置いた説明が多いが、基本的な考え方はそれ以外のプロジェクトにも適用できるはず。
リスクを取らずに済むのであれば、そうすればよい。わざわざ危ない橋を渡る必要はない。
だがリスクと利益は切っても切れない関係にあり、成功を掴むためにはリスクを避けて通ることはできない。
著者らは、「リスクのないプロジェクトに手を出してはいけない」とまで言う。
しかし同時に、リスクを無視するのも愚かな行為であると主張する。
不確定性を数量化し可視化すること、過去のデータを活用すること、あたりがリスク管理の中心的な考え方なのかなと読んでいて思った。
未来は不確実であり、誰にも分かりはしない。「このシステムはいつになったら完成するんだ、正確な納品日を教えろ」なんて聞かれても、分かるわけない。
だが、分からないなりに分かることだってある。「どんなに早くても来年の 3 月までに完成する可能性はゼロだろう。だがさすがに 12 月には完成しているはず」。
こうすると、依然として未来は不確実ではあるが、不確定性の範囲を示すことができる。
また、未来は分からないが過去に何が起こったのかは分かる。そして過去の実績は未来を予測するための貴重なデータになる。これまでのプロジェクトはどのようなリスクを抱えていて、それはどの程度実現し、プロジェクトの結果はどうだったのか。
それを記録しておくことで、より詳細に不確定性を数量化できる。
そして不確定性を可視化することで、どの程度の不確定性があるのかを正確に表現し伝えることができる。
本書自身がそれを実践・証明しており、図を使って説明してくれることで内容がすんなり入ってくるし、齟齬も生まれない。
視覚的に表現することで分かりやすくなるんだということを実感すると同時に、同じデータであってもそれをどう表現するかで得られる示唆は変わるんだなということも感じた。
本書では不確定性を漸増図と累積図で表現している。どちらも同じデータを違う形で表現しているだけだが、どちらを使うかで得られる示唆が変わってくる。知りたい内容に応じて適切な可視化方法を選ぶ必要がある。
可視化した不確定性のなかから特定の日付を選んでコミットメントするのは望ましくなく、可視化された不確定性そのものをスケジュールの約束にすべき、というのも尤もだなと思った。
確かにそれが望ましいとは思う。
とはいえ、そう簡単にはいかない。
本書を読んで一番強く感じたのが、リスク管理を行うためにはそのための土壌が必要だということ。著者らによれば「リスク管理は大人のプロジェクト管理であり成熟の証」とのことだが、まさに成熟した組織でないと不可能な取り組みだと思う。
本書でも何度も言及されているが、リスクを直視できない組織は多い。
リスク管理を行うためにはまず、不確定性やリスクの存在を認めることが重要なのだが、それがそもそも難しい。
不確定性やリスクの存在は「怠け」や「弱気」の印である、と見做す価値観や文化は確かに存在する。魅力のない結果ではなく魅力のない予測を罰する文化、失敗することは許されるが「失敗するかも」と口に出すことは許されない文化。
そういう文化においては、致命的なリスクからは目を背けるようになる。そのようなことについて考えるのが恐ろしいので、存在しないものとして扱ってしまう。そして、約束を守ることより、とにかく大きな約束をすることが大切になってしまう。
そのような環境では、リスク管理を実践するのは不可能だろう。
結局は文化や組織風土の話であり、「リスク管理」に限らず何事もそうだと思う。文化は組織の土台であり、それが腐っていては、その上にどんな立派な制度や仕組みを載せたところで上手くいかない。